薬のせいだろうか? 眠くてウトウトしていた… 『目を開けて』 女性の声が聞こえてくる。厳しさを装おう声だ。 それは、患者を気遣い感情を隠そうと心掛けているのだろうか? 虚ろにさえ聞こえてしまう。 今は、肩肘腕のリハビリの最中だった。 けれども、何にも動かない。 動く気さえもしない。 意味は有るのだろうか? 俺だって、動かそうとはしてみた…電池の切れたリモコンを何度も何度も押してみるように…もう諦めていた。 指先までの神経はあるのだが、脳から何も信号が送られて来ないのだから、結局は動く筈もない。 そう考えていた。 まるで筋肉は軟らかくて、その感触は悲しくなる。 左脳に【31t】の脳出血があり、右半身の運動機能と言語が不自由になり、感覚障害も表れた。 …脳の一部が死んだのだ。 点滴をすれば7日から10日で脳の出血は吸収され、死んだ細胞に替わり 周りの脳細胞が新しく運動機能を発達させていくが… どれだけ回復するかは? わからない。 …と医者に説明を受けた。 数日後、食事とリハビリが始まった。 何時からなのか? ハッキリとした記憶がない。 リハビリの内容は、 @ 言葉(頭) A 作業(上半身) B 歩く(下半身) に分かれている。 リハビリが始まった頃には言葉が戻っていた。 けれども… 脳出血のダメージに、傷害の無い各機能が対応しているのだろうか? 次第に…いや、時間の経過と伴に…感覚、反射が鈍り、認識力、理解力が弱くなってきた様に思える。 記憶力まで削がれていく。 看護師さんの名前すら覚えられない状態に陥った。 前日の記憶さえ断片的で思い出せない。 きっと、大事な記憶を忘れているに違いない。 テレビの音声が言葉として認識できていない。 感じようとしていない。 考えようとしていないのだ。 其れはきっと、 精神崩壊を防ぐ為の生体反応なのだと思った。 脳がセーブモードに切り替わったのだと…。 …色んな感情も薄れていた。 喜びも無いが、悲しみも無い。 だから生きていられる気がした。 [先頭ページを開く] [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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